読書備忘録27『言鯨16号』/九岡望

 半年くらい前からずっと購入リストに入っていたのになかなか購入の機会が無かった本を遂に手に入れて(というか追加注文した積ん読を受け取りに行った際に偶然見つけて衝動的に買った)読みました。ありがとうブックオフ,年始に大量に売りに行ってやるから覚悟しとけな。

 "言鯨"と書いて"イサナ"と読みます。ストーリー的には,砂ばかりが存在する(砂漠が海と呼ばれる程度に)世界において,人々はその世界を創ったとされる言鯨の遺骸を中心に生活をしており,その言鯨があるきっかけで目覚め......,という感じ。詳しく話すとネタバレになるので曖昧にしておきます。「言葉」というものを中心に物語が進んでいき、ジャンル的にはファンタジーに近いと思います。ハヤカワから出ているファンタジー系のSFが9割9分9厘ツボなんですけれど,これもご多分に漏れずとても良かった。というか久しく味わっていなかった興奮を覚えました。最後にこの読了感を得たのは『屍者の帝国』以来かなぁという気持ち。ファンタジー色が強いのでSF特有のゴチャゴチャ感は少なめなのですが,最後の怒濤の展開ではSFっぽい設定も回収されてすごく気持ちが良かった。かなりおすすめです。

 さてこれが好きな人は

『骨牌使いの鏡』/五代ゆう

が多分刺さります。同じくファンタジー系統でちょっと近しいものを感じました。

 

それでは。

読書備忘録26『ギルガメシュ叙事詩』/矢島文夫

 自分はアジア史が大好きなんですよ,ローマ史も好きだけど。てなわけで有名な作品を読もうのコーナーです。

 この本はよくある解説本みたいなのではなく,完全に学術向けの日本語訳になってます。なので,これでギルガメシュ叙事詩の話の内容がすべて分かるかというとそんなことはない。ただ,古文書的なものからこういった物語を復元する際に,どんな手順を辿るのか,どういった類推をして不足部分を補うのか,といったことを知れるのは非常に興味深い。分野の人には当たり前でも門外漢には全く分からないものなので。自分はfateにあまり触れていないから頭をよぎるなどは全くなかったのですが,fateを知っていると色々おもしろさも増すのかなぁ,と思いながら読んでました。あとがきでの作者の情熱を垣間見られるのも非常によい。こういう情熱を持って生きていきたいものです。

 さて,この本が好きな人は,とりあえず『イリアス』とか『旧約聖書』も読むと良いんじゃないですかね。あと,少し方向性がずれますが,古の名作として『オイディプス王』はマジでおすすめします。正直そんなに文量も無いのですぐ読めるし。

 

それでは。

読書備忘録25『ラ・パティスリー』/上田早夕里

 音楽を聴きながらペラペラとめくっていたら読み終わってました。やはり電車による通学時間は虚無である一方で読書は捗ってしまう。

 第一印象は「上田早夕里ってこんなのも書くのか」でした。いままで『リリエンタール~』とか『華竜の宮』とかのSF色強めの作品や『薫香の~』のようなファンタジー系(とはいえ元ネタはまるまるSF)の作品しか読んでいなかったので、こういうライトなおしごと系は新鮮。お菓子作りを軸に話が進んでいくので、色々な用語が飛び交ってわりかし消化不良ではあります(お菓子だけに)。話の進み方は起承転結を絵にしたような感じで、本当にページ数を4等分くらいにして話が展開していった。書きぶりが軽妙なのはやはり良いですね。明治期の文豪みたく重たいのはもうしんどいです。巻末の広告を見ていると続き(というか関連本?)があるっぽいので、古本とかkindleセールとかで見つけたら買ってみようかなぁと思います。

 これが好きな人は

『こちら郵政省特別配達課』/小川一水

謎解きはディナーのあとで』/東川篤哉(カバーイラストだけで判断するな)

あたりも好きかも知れない。

 カバーイラストの中村佑介は個人的に好きなイラストレーターで、実は画集も持ってたりします。アジカンのジャケ、特に「君繋ファイブエム」のジャケが好きです。

 

では。

読書備忘録19~24

 すっかり読書備忘録を更新忘れていました。読んだ本はあるので、とりあえず読んだ本を列挙して一言ずつ感想を書いていきます。ナンバリングは読んだ順に今までの続きで書いていきます。

19: アラブの歴史/フィリップ・K・ヒッティ 岩永博 訳(上・下)

 アラブはもはやライフワークみたいなところがあるので。かなりごつい本なので読むのに時間がかかった。ともすればアラブはイスラム以後のことに注視しがちですが、イスラム以前にもかなり紙幅を割いていたのがいいですね。特にアラブ民族の中でもいろいろあるんだなぁというのが面白かった。

20: トネイロ会の非殺人事件/ 小川一水

 大好きな小川一水先生。いつものSF風味とは一転してミステリ系。短編なのも読みやすい。でもその中にあって「くばり神の記」なんかはちょっとSFっぽくて業(?)を感じますね。

21: 回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲイター/ 小川一水

 また小川一水先生。これは郵政--系のおしごとコメディ的なやつですね。小川先生は、最初少し引き気味だった主人公が夢中になっていく構図が好きっぽく、またその展開も上手いと思います。

22: 天冥の標/ 小川一水(1 ~ 3)

 まーた小川一水先生。昨今のウイルスがらみで気になったところ、kindleでセールをしていたので1 ~ 3まで手に入れて読みました。めちゃくちゃ面白くて続きが気になるんですが、ちょっと長すぎて少しためらう気持ちもあり、とどまっています。ファンタジーとかおしごと系とかの小川一水先生が全部あってすごく良かった。

23: HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ/ 葵遼太

 原案が冲方丁とのことで衝動的に手を伸ばしてしまった。ストーリー自体は冲方っぽいというよりは売れ線系のちょっと救いのない話にした量産型な感じが否めない。あと声優も売れ線を集めてきているっぽく、商業感満載だなぁという気持ち。

24: 皇国の守護者/ 佐藤大輔(1 ~ 2)

 これは現在進行形で読んでいる本。一年近く積んでいたのでやっと重い腰を上げました。戦記物が実は好物なので、めちゃくちゃ良いとなっています。どっかの議員さんが何とか......みたいなのがあった気がしますが、気持ちはわかる。これが好きな人は絶対幼女戦記も好き。

 

 という感じでした。実をいうと、「マンガで読破」のシリーズを5 ~ 6冊読んでいたり、キルミーベイベーを読んでいたりしているので実読書数はもう少しありそう。あと論文も今年は40報くらいかな......。とはいえまだまだ読んでいるので年内にあと1冊は固く、積んでいる皇国の守護者も続きを読もうと思います。さらに、電子で三体とかアステリズムに花束を とか約束の国があるので読む本には困らないですね。未来職安とかも読みたいと思っているし、今趣味の拡張をやっているのでそれの資料もバリバリ読んでいこうと思っています。勿論論文も!それでは良いお年を。

 

ノシノシ

 

読書備忘録18『十二人の死にたい子どもたち』/冲方丁

 ご無沙汰でした。読んでいなかったわけではなく,これを書いていなかっただけです。あと重い本を読み進めているので冊数も進んでいない。

 さて、これは近所のBOOKOFFの100円本の中で偶然見つけ,読んだことのない冲方作品だったのでチョイスしたものになります。やっぱ冲方丁なんよな。信用可能です。内容としては,ちょっと推理ものっぽいサスペンスですかね。冲方節(お前はSFが好きなだけ)が感じられなかったのは残念。とはいえ,さすがベテラン作家という感じで,かなり多い登場人物にもかかわらずキャラ分けはしっかりできていてほとんど混乱もない。こういう作品の楽しみ方をあまり理解していない(自分はネタバレOKな人間なのでパラパラとあとがきを読んだりすることもあってサスペンスを楽しむ,という感覚がない)のですが,個々の登場人物のバックグラウンドもそれなりに深堀してあり,さらにどんでん返し的な展開もあるので,飽きは来ませんでした。やっぱり軽い書きぶりなのも大きいかもしれない。映画があるらしいですが,ネタバレNG派の人ってこういう映画と小説があるとどっちから触れる(orどっちかしか触れない)ものなんですかね。個人的には小説を読んでから映画を読んで小説中の特徴的なシーン(「文字芸術的」と自分は呼ぶことが多いです)がどう表現されてるかを見るのとか好きです。まぁあんまり映画を観ないんですが。

 さて,これが好きな人は

三毛猫ホームズ」シリーズ/赤川次郎

あたりも好きかもしれませんね。赤川次郎は自分が本の虫になるきっかけになった作家で,小学生の頃に図書館の棚の端から端まで読み尽くしたのが良い思い出です。

 それでは。次回は大きめの学術書を予定しています。

読書備忘録17『トランスフォーマー リベンジ』/アラン・ディーン・フォスター 中原尚哉 訳

 またまたトランスフォーマー読んじゃった。映画見てた記憶はあったのですが,相当前だったことを思い出しました。また見たいけどアマプラに無いわよ...。

 これはハリウッド映画の2作目のノベライズですね。内容としては前作を受けてさらに風呂敷を広げまくっています。正直やり過ぎ感は否めない。メガトロンが復活して(これは『ダークサイド』もそう),さらに黒幕が...となってしまい,メガトロンのキャラ付けがちょっと危うくなってる感じ。前作には無かった謎解き要素も加わって,面白いは面白いのですが,映像感を知ってしまっている身としてはちょっと物足りない。あとはちょっと露骨な伏線があったのがくどい。

 というわけで,これが好きな人は

トランスフォーマー』シリーズ

でも読むか見るかしてみると良いでしょう。アマプラにあるキワモノも今度見てみようと思います。あと,個人的には『バトルシップ』もオススメします。

 それでは。

読書備忘録16『サクラダリセット』/ 河野裕

 先日言っていた長めのものを読んでいる,という話はこれでした。自分はこの手のシリーズものを(できることなら)一気に読みたいと思っている人間なのですが,この『サクラダリセット』については,早々に全7巻を揃えてしまったのが運の尽きでした...。そう,足掛け2年ほど積んでいたのです。ラノベ角川スニーカー文庫なので)なんだから早く読めばいいものを,全7巻という絶妙な長さが災いして全く手につかず...。コロナ禍の所為で本棚から未読が消える&通学環境の変化,によってようやく読み始めて現在に至る,という感じです。電車通学のおかげというところは多分にあるのでそこには感謝しています。

 さて,内容はというと,いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」ですね。個人的にはタイトルからしタイムリープ系のSFを期待してたのですが(というか映像化の時のキャッチコピーがそんな感じだったと記憶している),ちょっと期待外れ感がありました。ともかく「ボーイ・ミーツ・ガール」は好物なのでそれなりには楽しめました。それなり,というのは個人的な好みの部分が大きい。「リセット」という能力と「記憶を保持する」という能力を起点にして話が進んでいく感じ。物語が進むにつれて過去が明らかになっていき現在とつながっていく,という展開はやはり引き込まれるものがあって良い。ストーリーそのものについてもしっかり作りこまれていて,ある種タイムリープSFとも通じるところがあります。

 それなり,と言ってしまったのは時々挟まれるちょっとクサいとも言えるような言い回しのため。”未来を思い出す”なんて(ストーリー的によくわかるものの)いかにも厨二的で「うわぁぁぁ」となっちゃいました。あと,どうしても時代柄なんでしょうがセカイ系をちらちらと感じてしまい,そこに振り切れないもどかしさはありました。またまた個人的な話として,自分は半端なセカイ系が少し苦手です(やるなら徹底的にやるor排除してほしい気持ち)。似たような「ボーイ・ミーツ・ガール」として『ムシウタ』/岩井恭平 があるのですが,こちらは薬屋くんと杏本さんのセカイですからね。つまり,ヒロインはしっかりと振り切って欲しかった(または恋愛的な要素を完全に排除してほしかった)。重ね重ね,これは好みの問題。

 というわけで,この本が好きな人は,

ムシウタ』/岩井恭平(自分の青春です)

新世界より』/貴志祐介(異能もの)

404 Not Found』/法条遥(タイムリープもの)

あたりが良いでしょうか。『ムシウタ』はめちゃくちゃ好きな作品で,これが完結した時にはあまりの衝撃に一か月くらい引きずってました。確実に自分の性癖に影響を与えている作品です。

 それでは。