読書備忘録3『リリエンタールの末裔』/上田早夕里

 上田早夕里は『華竜の宮』を初めて読んだときから好きピです(推し作家のことを好きピと呼ぶな)。作者のバックグラウンドはよく知らないので何とも言えないのですが,『華竜の宮』は簡単に言うと「ホットプルームの上昇で異常気象が発生し,海面上昇によって人類は2つの種族に分かれた」(意訳)なんて感じ。そりゃあ地学オタクは歓喜しますよ。細かいことを言えば,巨大なホットプルームが出来るのは沈み込み帯に囲まれた超大陸の中央部だったはずなので(テクトニクスは専門じゃないのでうろ覚え)人類には早すぎるんじゃないかと思いますが(でも好きです)。

 でもってこの『リリエンタールの末裔』はその『華竜の宮』のスピンオフみたいな短編+αの短編集です。『華竜の宮』自体は登場する生物などはかなりファンタジックなのですが,背景はかなりSFしている。『ねじまき少女』/パオロ・バチガルピ とか『Gene Mapper』/藤井太洋 とかが好きな人は『華竜の宮』を楽しめると思いますし,この本の表題作もかなり楽しめるはず。ただ,『華竜の宮』ほどのスペクタクルはありません。まぁ得てして短編はそういうものなので,『華竜の宮』を読了してからこちらを読むのをオススメします。

 その他の短編ですが,2/3編は基本的に技術の進歩とそれに伴う身体の適応・拡張をテーマにしたThe SFという感じの作品。テーマは重そうですが,タッチは非常に軽い。具体的な書きぶりなどを書くと若干ネタバレしてしまいそうなので抑えますが,この軽さは野尻抱介に近い,というかまんまそれ。野尻抱介も好きピなのでとても楽しかった。この手のテーマはしばしば暗い要素を含むことがありますが,この2人はかなり明るくそれを扱うので落ち着いて読める(ラノベ的とも言えるかもしれない)。SFビギナーにもオススメできます。

 残りの1編は,インタビュー形式で話が進んでいきます。ただ,聞き手は読者になるので視点の入れ替わりなどは基本無いです。ジャンルとしては「スチームパンク(もどき)+ファーストコンタクト」でしょうか。どっちも大好きなジャンルなので終始楽しんでいました。仮想18世紀のロンドン(なんて言い方をするとハガレンっぽい)で時計職人とそれに憧れる少女の成長(と冒険)が描かれます。短編としてもすごくよくまとまっており,正直なことをいうとタイトルはこの作品でも良かったんじゃないかと思うほど。実在の人物も入り交じっているので歴史オタクもある意味楽しめるかも知れない。この話は是非読んで欲しいと思う次第ですね。僕の読んできた短編の中ではかなり上位に入ってきます。

 さて,この本が好きな人は

『ねじまき少女』/パオロ・バチガルピ(重いです,人を選びそう)

Gene Mapper』/藤井太洋

『ふわふわの泉』/野尻抱介

『南極点のピアピア動画』/野尻抱介

あたりがオススメでしょうか。特に野尻抱介はオススメ。

 

 今日は長らく寝かされていたまちカドまぞくの1巻をやっと読み終わりました。もしかしたらそのうち2巻を買うかもしれない。