読書備忘録2021-23『星系出雲の兵站-遠征- 1』/林譲治

 ミリタリSFを読む機運がまた高まってきたのであります。これは何故か1巻だけkindleで無料になっていたので勢いで買っちゃったやつ。まんまと乗せられて続刊の購入を検討中です。

 雰囲気としては(田中芳樹的)スペオペ感があります。一巻だけなので世界観を理解したとは言いがたいかも知れないですが,未知との遭遇要素を銀英伝に足したと言えば分かりやすいでしょうか。こうであって欲しいという未知との遭遇のあり方を書いているので,個人的にめちゃくちゃ好みです。やっぱり価値観が人類と同じ訳が無いので,接触=戦闘くらいの雑さで戦争して欲しい(あくまでフィクションにおいてのみ)し,当然人類は終始劣勢で種として絶滅しかかっていて欲しいし,ある朝起きたら敵が全滅していて欲しい。はい,『宇宙戦争』が好きです。この作品はミリタリ要素もかなり強く,宇宙空間での戦闘に当たって(光速を超えられない以上)情報交換はどうやっているのか,というような問題にも向き合いながら書いているなぁという印象です。

 実は『-遠征-』のついていない方もシリーズとしてあるようで,「もしかして自分,読む順番間違えました?」となっています。仕方が無いのでこのシリーズを先に読んでから無印の方を読もうと思います。

 さて,これが好きな人であれば

宇宙戦争』/H.G.ウェルズ

『ヤキトリ』シリーズ/カルロ・ゼン

あたりも良いかも知れません。前者はそもそもから違いますが,やはりミリタリ系は新兵器!ドカーン!みたいなのでは無く,兵站とか情報のやり取りとか政争とか銃後とかそういった部分をしっかり描いてくれる作品が好きです。

 では。

読書備忘録2021-22『アメリカン・ブッダ』/柴田勝家

 柴田勝家の本です。そう,あの戦国武将です。冗談はさておき,割と推し作家でもある方ですが,初めて短編を読みました。生協の本屋でジャケに惹かれて衝動買いした一冊で,久しぶりに紙書籍を買ったなぁ,となりました。やっぱり表紙がしっかり見られて軽く厚さなどを確認できる紙書籍は良い。もちろん電子にもいいところはありますが。

 軽く触れたように,これは柴田勝家の短編集です。表題作『アメリカン・ブッダ』はほんのりと某ホーガンの『内なる宇宙』とか『マトリックス』,ドラマ版『未来日記』を彷彿とさせました。全体を通して,作者のバックグラウンドである文化人類学的な素養("TRIBE"とでも言えばいいんですかね)を感じます。一般的なSFと違うのは,いかにもな未来的技術に加えて「それを用いることで生まれた文化は?」とか「そもそもの生活と技術の融合は?」みたいな問いかけにあふれている感じ(特に『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』)です。かといってSF的な部分が弱いとかは全くないので本当にすごい。

 あと,本編とは関係なく,あとがきで紹介されていた柴田勝家の人となりが本当に面白くて爆笑してしまいました。ぜひこの作品を読むときはあとがきまでしっかり目を通すことをお勧めします。本名もさらっと公開されていたのですが,マジで男性アイドル育成ゲームの登場人物みたいで変な声出ました。

 さて,これが好きな人は

『ニルヤの島』/柴田勝家

はまず読んでいただきたい。文化人類学×SFで本当にすごい作品です。個人的にはドラマ版『未来日記』も好きなんですが(お前いっつも言ってんな),世間的には評価があまり高くないようで......。

 それでは。

読書備忘録2021-21『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』/ケン・リュウ 編

 最近中国にハマりまくっており,整个身体都变成了中国。それはさておき一度中国&台湾に行きたいなぁと思っています。いつになることやら。

 これは中国でイケイケのSF作家たちの短編を集めた作品集です。それぞれの話を説明するのもアレだし面倒なので,なんとなくの感想を書きます。

 前書きで「これを安易に中国批判などとして捉えない方が良い」など書いてあったのであまり良い感想とは言えない気がしますが,ディストピアの描写がめちゃくちゃ上手いという感じで,実感こもってる印象でした。よく読んでいる系統の日本SF(円城塔とか冲方丁とか)とはかなり毛色が違う印象を受け,中国SFの方が「なんだこれは」感が薄いのかなぁという感じです。そもそも日本SFでディストピアものをあまり読んでいない気がするのは許して。表題作の『折りたたみ北京』は「そう終わるの?」って感じだったのですが,よくよく読んでみると長編の一部(になる予定)らしく,ぜひ長編も読んでみたいですね。それはさておき積んでいる『三体』をはやく読まなければならない(一部抜粋が入っていてほんの少しネタバレを食らったので読む機運が高まった)。

 さて,これを読むなら

1984年』/ジョージ・オーウェル

すばらしい新世界』/オルダス・ハクスリー

は読んでおきたいところ。また,短編ですが,

『たのしい超監視社会』/柞刈湯葉(『人間たちの話』収録)

も軽妙なディストピアもの(和製)で面白いです。

 近況報告じみた話ですが,最近自分の中でジャンプ漫画ブームが再燃しており,重い腰を上げて「『BLEACH』全巻買っちゃうかな~」の気持ちがあります。でもお金はないです。きっかけは『呪術廻戦』だったのですが,とりあえず『チェンソーマン』は機会を見て買います。これは本気。あとあと,『HUNTER×HUNTER』と『D.Gray-man』は早く完結してくれないといつまでも寝れない日が続くのでどうか作者の方々には頑張っていただきたい(待ってます)。

 それでは。

読書備忘録2021-14~20『皇国の守護者』/佐藤大輔

 やーーーーっと読み終わったのです。二段組の本は本当に読みにくいので合間合間に別の本を挟みながら読み切りました。物語シリーズもはやく文庫化してくれ,ってずっと言っている気がする。

  いわゆる架空戦記モノってやつです。とはいえどう考えても「皇国」のモデルは日本ですね。たまに書いていたように記憶していますが,自分は実は軽いミリオタで(兵器とかにはそれほど興味がないけれども,兵隊の運用であるとか銃後との関わりとかそういった方面に興奮するタイプ),この作品はそのあたりの好みにドンピシャです。これは『幼女戦記』にも言えます。設定には割とファンタジー要素があるんですが,それでも現実から(運用面において)乖離しているものはそれほどなく,そういったあたりに作者のこだわりを感じます。ただ一つだけ気になるのは(未完なのでその後の展開としてあったのだ,と言われると何も言えないが),皇国と帝国の戦争がこれほど泥沼になっているのに南冥やらアスローンやらとのいざこざが一切出てこないのはどうしてなんだ,ということでしょうか。皇国からすればこれらの国と結んで帝国に二正面を強いるというのが常道にも思えますが一切の交渉が描写されなかったのがどうにも(ほとんど本編にかかわらなかった西原とかが手をまわしてそうな雰囲気もありますが)。

 さて,これが好きな人は

幼女戦記/カルロ・ゼン

マヴァール年代記/田中芳樹

あたりをお勧めできるでしょうか。銀英伝も,と思ったんですが,恥ずかしながら自分が5巻で止まっているのでちょっと避けました。架空戦記はやっぱりいいですねぇ。

 それでは。

読書備忘録2021-13『妖精作戦』/笹本祐一

 興味を10年持ち続け,買ってから1年積んだ本です。自分でもバカすぎると思います。

 異能×学生,みたいなのって今でこそ腐るほどありますけど始まりはいつだったんでしょうか。この作品はその源流に近いところにいるんですかね。この作品のおもしろい(と思っている)ところは,主人公が異能を持っているわけではない,というところで,この辺が『サクラダリセット』とか『時をかける少女』とは違うところです。個人的にはこういう設定だと「勇気! 友情!」みたいになるのでそれはそれで好きです。シリーズは3作あるみたいなんですが,この最初の1冊でめちゃくちゃ大ぶろしきを広げている(巨大すぎる組織が出てきたり宇宙まで行ったりする)気がして,どう畳むのか気になってはいます,が,どうも食指が動かない。というのも,どうにもこういうのを心から楽しめるメンタルが少し弱くなっちゃっているところがあり,多分むかしの僕らが持っていた「拗らせ」が無くなっちゃったのかなぁ,なんて気がしています。今,ぼくらシリーズを読んでも同様の感想を抱きそう。難しいお年頃だ~。

 さて,これに対するオススメは

サクラダリセット』シリーズ/河野裕

『ぼくら』シリーズ/宗田理

『revisions リヴィジョンズ』シリーズ/木村航

あたりですかね。ぼくらシリーズは言わずもがな,最後のも異能とはちょっと違うけれどジュブナイル系の良い作品です。昔(2~4年前くらい)はジュブナイルものが好きだったんですが,そういえば最近読んでないな~,と思いました。とあるシリーズが途中で止まっているので読みなおそうかな。

 それでは。

読書備忘録2021-12『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』/SFマガジン編集部

 大分前に読み終わってはいたんですが例の如く悶々としていたのでしばらく放置していました。百合に向き合う2021のきっかけになった本です。

 それぞれの短編が出来が良いだのなんだのは言いません。そもそもこの備忘録の目的からは外れますし,百合をまだ理解できていない自分が言うものでもないと思うので。良かったものを箇条書き的に書いていきます。

・まえがき

 これが一番良かったまである。何とも言えない気持ちになって,胸がほっこりするというか,エモいというか,まぁともかくすごく良い前書きでした。

・幽世知能/草野原々

 やっぱり草野原々なんですよ。以前も書いた気がしますが,心がグッチャグチャになった挙げ句,最後には2人が1になって欲しいという歪んだ性癖があるのでこれがぶっ刺さりました。設定もSF的道具にちょっとリアリティのある舞台となかなかニクい感じ。好きです。

彼岸花/伴名練

 伴名練って確か『日本SFの臨界点』の人でしたっけ。恥ずかしながらこれで初めて読んだのですが,まぁすごく良い。吸血鬼っていうのは「血を吸う」という設定を上手く使えば親密さに繋げることができるので,百合の道具として良いよなぁ,とは思っていました(東方のスカーレット姉妹もそういう文脈が一部ありそう)がこう使われるか~~という感じ。距離感の演出が上手い。そしてやっぱりオチはそうなって欲しい!

 

 という感じです。小川一水は? という気持ちもありますけれど,既に単行本の方を読んでいたのでそれほどの思いは抱かなかったですね。何はともあれ百合に向き合う2021をこれからもやっていくつもりなのですが,これをヒントに百合SFを追っていきたいと思いましたまる。

 さて、これについてはもうオススメが決まっていて、『ゼロ年代SF傑作選』収録の

『アンジー・クレーマーにさよならを』/新城カズマ

です。これは本当に良い百合SFだと思っているのでいつまでも人にオススメしちゃう。

 それでは。

 

P.S. 伴名練っていうPNはハンナ・アーレントから来てるんですかね,何となく連想してしまいました。

読書備忘録2021-11『黒猫の遊歩あるいは美学講義』/森晶麿

 今回はハヤカワのミステリものです。Kindleで安く売られており,前々から巻末広告で紹介されていたのが気になっていました。

 この本は,全編を通じてポオの小説をモチーフにして話が進んでいきます。自分はポオ(エドガー・アラン・ポー)にほぼなじみがない(江戸川乱歩ならそこそこ読んだことあるけれど)ので「なるほどね~~」などとはなりませんでした,無念。ちょっと調べてみたらポオの小説で最初に日本語されたのが『黒猫』という作品らしく(Wikipedia情報),そういうところから凝ってるな~という感想です。ポオというからには探偵ものっぽい雰囲気が展開されており,前回の『高い窓』みたくトリックが~というものではなく,断片的な情報から真相にたどり着く,という形式なので自分としては新鮮な気持ちです(いままで探偵ものをそう読んでこなかったのもある)。テーマの1つに美学があるようで,レトリックな部分にも心地よいものがありました。作中に出てくる詩なんかはすごく好みの作品でした。こういう詩も書いてみたいものではあります。

 さて,オススメしようにもなかなかこういう系統の作品のバックグラウンドが無いので難しい。探偵ものってそんなに興味が無かったんですよね。最近ちょっと面白いのでは?になっています。探偵もので好きなのが『刑事コロンボ』(探偵......?)なので普通の謎解き系がそこまでしっくりこないというのもあります。そういえばコロンボが好きなあたりからもネタバレOK気質の片鱗が見えますね。話が逸れましたが,とりあえず

刑事コロンボ

をオススメしておきます。最初っから犯人が分かっていて,それをどのようにして探偵が暴いていくのか,という形式は慣れないと「え?」となりがちかも知れませんが(今回の本はそういう形式では無いです)。

 それでは。